本場大島紬泥染め工程

1300年の伝統を誇る本場奄美大島紬

 その泥染めの工程は、島に自生するテーチ木(シャリンバイ)をチップ状にすることから始まり、その時々の気候、時間、糸の状態をみながらテーチ木の煮汁で染め、染めては絞り、染料を入れ替えしてはまた染める。 するとテーチ木の色、茶色の褐色になります。

 そして、自然界に存在する鉄分豊富な泥田に、太ももまで浸かり、テーチ木染めした糸を泥で焙煎する。この泥こそが島でしか出来ない最大の特徴。粒子が細かく丸い。そして自然界に存在する鉄分が豊富なのです。
  我々は、大自然の恩恵を受け、その環境を守っていかなければなりません。

これだけの工程1回では完全な黒褐色にはならないので、この一連の工程を3〜4回繰り返すことで、やっと奄美の泥染め独特の深みのある黒褐色が生まれるのです。

泥染めの色合いは、やさしく、奥深く、力強い色。まるで奄美の深い杜のように海のようにも思えます。  決して化学染料で合成し得ない独特の渋みの黒。 
島に自生するテーチ木と鉄分を多く含む田の泥を染料として染める方法はまさに、島の大自然と人の歴史によって生み出された技術です。
 

                        泥染めが好きでたまらない 泥染め職人見習い  山元 隆広

 

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・染料を作る

  
直径が7〜8cm以上で、島の土壌で育ったテーチ木を細かくチップ状 (約600kg)にし、千斤釜で約二日間煎じ、成分(タンニン、ポリフェノール等) を抽出します。一週間ほどねかせて醗酵(微生物の作用)させます。 

すると茶褐色の少しトロミを帯びた状態になり、同時に独特のにおいを 発します。一回で約2000Lの染料が出来ますが、3〜4日分でしかあ りません。一日に約400〜500L使用します。 煮出されたチップは乾燥させ、次の釜をたく燃料となります。 また大量に出た灰は、あくまき(ちまき)の原料となります。 あますとこなし! 

染料(酸性)は生きていますので、天候、気候温度で染まり具合 も違ってきます。主に海岸付近に自生しているテーチ木は養分が凝縮されていますので、 いい染料ができます。


切り出されたテーチ木は、1mほど残し切り出されるため、7〜8年後にはまた染料として使えます。

チップ
・煮出されたチップは 次の釜をたく燃料となる。


なんともいえないいい香りです。

・染める

写真のようにやや中腰になり、手を前後に動かしもみ込んでいきます。
液を泡立てながら空気に触れさせ、揉みこんでは絞り、また揉みこむ。 そして、染料を半分捨てては新しい染料を半分足して色の濃度を上げて いきます。

このテーチ木に含まれる「タンニン」という成分を糸に多 く付着させるため、染料を入れ替えるのです。
漬け込むだけでは染まりません。

途中、石灰水(アルカリ性)に浸し中和させ、染まり具合を調整します。 この石灰の量が、染まり具合(染料は生きている)を調整する大事なカギと なります。染料のタンニン成分を付着させる接着剤の役割でもあります。

ゆっくりゆっくり、時間をかけてじっくり丁寧に染めていきます。 

この作業を繰り返すことにより、糸は茶褐色に染まっていきます。 自然乾燥(約1日〜完全に乾くまで)させては同じ作業の繰り返しです。こうすることで色の層(レイヤー)が深くなっていくのです。

糸を切らぬよう、また感覚で素材の状態を確かめるため素手で作業を行います。
そのため、手も同時に染まっていきます。染めの良し悪しは職人の長年の経験と感が頼り。

糸
・時間をかけてゆっくりと染まっていきます。    


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・泥染め

泥染め糸
・テーチ木染めしては、泥でコーティングの繰り返し
  あの大島の独特の色合いはこうして生まれるのです。

 

テーチ木染めしたものを次は泥田で染めます。 染めるというよりは、泥に含まれる鉄分(Fe)をタンニンと反応 させる 、泥でコーティングするといったほうがいいでしょう!。「鉄媒染」といいます。
媒染ことにより、茶褐色の糸が黒い褐色へと変化していきます。
 
  奄美の泥の特徴
・きめが細かく粒子が丸い。(糸が傷つかない)
・自然界に存在する鉄分が豊富(赤土の土壌)


泥に入れることにより、糸はしなやかになり、ツヤがでてきます。
また、防虫効果や静電気防止、消臭作用、いろんなメリットがあります。

粒子が結合しますので、色ががっちりとスクラムを組む感じになります。結合力が増しますので、退色防止等泥でコーティングすること によりたくさんのメリットが得られるのです。 泥に漬込む時間は温度、気候によって違ってきます。(夏は染まりやすい、冬は染まりにくい)

これだけの工程1回では完全な黒褐色にはならないので、この一連の工程を3〜4回繰り返すことで、やっと奄美の泥染め独特の深みのある黒褐色が生まれるのです。
(大島紬の糸は一週間〜10日ほどかけて染め上がります)

色のレイヤー(階層)が深いので、科学染料で合成し得ない独特の渋みのある色合いになります。

また、テーチ木の煮汁、自然の泥といった自然染料を使う為に、若干色落ちしたり、仕上がりが均一でなかったりしますが、手染めの温かさやわらかさ、またエージング(色の変化)も楽しめます。
島に自生するテーチ木と鉄分を多く含む田の泥を染料として染める方法はまさに、島の大自然と人の歴史によって生み出された技術です。

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